院長の論文紹介コーナー
オドントス No.46(1996年7月号)3Mヘルスケア
直接法コンポジットレジンベニアのすすめ
横浜市開業 吉 田 秀人
テトラサイクリンによる変色歯の審美性を解決する手段としては、近年ポーセレンラミネートベニアが脚光をあびており、従来のクラウンタイプの補綴に比べて格段に少ない切削量で、患者のニーズに十分答えられる術式が確立されたことは喜ばしいかぎりである。
しかしながら、適応症の患者の中には、費用の問題からラミネートの治療を断念している方も多いのではないだろうか。
また、漂白による方法も、生活歯の漂白、抜髄しての漂白ともに、それなりの効果が期待できるが、それに伴うデメリット(副作用)を考えると、テトラサイクリンによる変色歯には向いていないように思う。
私の医院では、費用の問題だけではなく、コンポジットレジンの接着に対する安心感などから、以前より直接法のコンポジットレジンベニアを積極的に用いてきたが、予想を上回る好結果が得られているため、ご報告させていただきたい。
直接法コンポジットレジンベニアの術式は、現在臨床において、ほとんど用いられていないようであるが、その原因として一番に考えられるのは、ポーセレンラミネートベニアに比べて、審美性に劣ると考えられているためではないだろうか。
現在私が使用しているコンポジットレジンは、3M Silux plus であるが、オペーカーとしての機能を持つMaskingAgentの適切な使用と、複数のシェードのペーストを積層することによって、ポーセレンラミネートに比べても遜色ない程度に審美性を回復することが可能である。
それでは、直接法コンポジットレジンベニアの長所と短所を、ポーセレンラミネートベニアと比較しながらあげてみたい。
【長所】
●1回の施術で完了する。
●色調に問題がない部分の歯質を削る必要がないため、歯質削除量が極めて少ない。
●ベニア部分が破折した場合、同一材料での補修が可能である。
●施術後、色調が満足いかない場合の修正が比較的簡単である。
【短所】
●チェアータイムが長い。
●表面の色素沈着がおこりやすい。
症例
テトラサイクリン変色歯の症例
左は初診時の状態。歯列全体にわたり、テトラサイクリンが原因と思われる重度の歯質の変色が認められる。(上顎中切歯2本は、メタルボンドクラウンで補綴されている。)
ポーセレンラミネートベニアも検討したが、歯頚部付近は変色が軽度であることから、歯質切削量を最小限に押さえることができる直接法コンポジットレジンベニアを選択。
上顎中切歯2本は、側切歯と犬歯のベニアが終了した後、その色に合わせてメタルボンドクラウンを調製することにした。
初診時の状態。歯頚部付近は、変色が軽度であることがわかる。
形成終了時。ポーセレンラミネートと同様だが、切削量を均等にする必要はない。(側切歯はベニアが終了している。)
ボンディング処置後、Masking Agent(U)を塗布したところ。
コンポジットレジン(3M Silux plus)の築盛が終了した状態。使用したシェードは、UOとL。
トリミング、研磨が終了した状態。
側切歯と犬歯の直接法コンポジットレジンベニアの後、中切歯のメタルボンドを装着し、処置がすべて終了した状態。
実際の術式は、症例をご覧いただければお解りいただけると思うが、注意点としては、ベニアの接着耐久性を上げるために、レジンペーストは米粒以下の大きさで、少しずつ築盛重合し、レジンの重合収縮を可及的にキャンセルすることが肝要である。
この直接法コンポジットレジンベニアにご興味をもたれた先生は、ぜひトライしてみていただきたい。
ポーセレンラミネートベニアよりも手間のかかる術式ではあるが、患者の喜ぶ笑顔が、施術後の疲労を吹き飛ばしてくれること請け合いである。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!